サッカーW杯でチュニジアは、ハンニバル選手が活躍したものの1次リーグ敗退してしまった。日本とともにリーグ突破したオランダはファン・ダイク選手が頑張っている。世界史で聞いたことのある名前の選手には、なんだか親近感をもってしまう。天皇皇后両陛下のオランダご訪問もあったことだし、今回は日蘭友好の史跡を紹介したい。
オランダは古くからの友人であり、我が国の鎖国時代には貴重な国際ニュースを届けてくれていた。これを「オランダ風説書」といい、写しが多数確認されているが、原本は寛政九年(1797)6月28日付けのものしか確認されておらず、国重文に指定されている。そこに署名しているのが第153代オランダ商館長ゲイスベルト・ヘンミーであった。


掛川市仁藤町の天然寺に「和蘭使節ゲースベルトヘムミ先生古墳」がある。我が国では見かけない形のお墓だ。
説明板には「ゲイスベルト・ヘンミィ」とある。どのような人物なのか、読んでみよう。
ケイスベルト・ヘンミィの墓
鎖国がおこなわれた江戸時代、長崎の出島はオランダ、中国との貿易のための窓口であった。出島のオランダ商館では、寛永十年(一六三三)より毎年一回、寛政二年(一七九〇)からは四年に一回、江戸城で将軍に拝謁して献上品を贈り貿易通商の御礼言上をした。ケイスベルト・ヘンミィもこのような使節団の一員である。
ヘンミィの一行七十余人は、寛政十年(一七九八)のはじめに長崎を出発し、四月に十一代将軍家斉に謁見した。そして、五月に江戸を発って長崎に帰る途中、六月五日掛川連雀の本陣林喜多左衛門方に投宿。この地でかねてからの病気が悪化し、六月八日に死亡、天然寺に葬られた。享年五十一歳。
この墓は、蒲鉾型の石碑を伏せた型で、表面にオランダ語でその由来が書かれている。すでに表面が風化して、判読できなくなっている。墓誌は記念碑に移刻されており、訳文も添えられている。
掛川市
ヘンミィの作成した風説書では、フランス革命の混乱やロシア皇帝エカテリーナ2世の逝去が報告されている。ただし、総督ウィレム5世の英国亡命や仏軍侵攻によるバタヴィア共和国成立など、都合の悪いことは伏せられているらしい。
ヘンミィが商館長に着任したのは寛政四年(1792)であり、同六年(94)に江戸参府を行っている。商館長の任期は1年で毎年1回だった参府が、同二年(90)から4年に1回になったことによるものである。また、ヘンミィの代から任期は5年とされた。
商館長は「カピタン」と呼ばれたが、これはキャプテンのポルトガル語読みである。オランダ語ではOpperhoofd(オッペルホーフト)と言うものの定着しなかった。
寛政二年(1790)から江戸参府の頻度が緩和されたのは、新井白石の海舶互市新例(かいはくごししんれい)以来年間2隻だった貿易船を、1隻へと制限したことに伴う負担軽減だったようだ。緊迫する世界情勢を知るには毎年の江戸参府があってもよさそうだが、オランダ風説書は毎年提出だったので情報には困らなかったらしい。
さてヘンミィは寛政十年(1798)、2回目の江戸参府に向け一行七十余人で。1月25日に長崎を発った。ただし、この時すでに胃を患っていたという。3月15日に将軍家斉に謁見した。太陽暦に換算すると4月末である。帰路掛川に着いたのが4月20日、とても動ける状態ではなくなり24日に帰らぬ人となった。1798年6月8日のことであった。
墓碑銘は判読しにくくなっており、大正十四年の記念碑に移刻されているというが、この状態である。

上段に戒名「通達法善居士」、中段に蘭文碑銘重刻、下段に訳文由緒が示されている。その訳文は以下のように刻まれているように見える。
此地下静座ノ体アリ敬フベシ尊ブベシ
名ヲゲイスベルトヘムミ先生ト称スル
君ノ生ヲ終タル処ナリ先生存命ノアヒ
ダ職ニ在テ主ル所ハ日本国交商ノ大商
官ト鍳舶師ヲ摂タリ我紀元一千七百四
十七年六月十六日誕生同一千七百九十
八年六月八日往生而葬之
維時一千七百九十八年六月九日
此の地下静座の体あり敬ふべし尊ぶべし。名をゲースベルト・ヘンミイ先生と称す。君の生を終へたる処なり。先生存命のあひだ職に在って仕る所は日本国交商の大商官と監船師を兼ねたり。我紀元一千七百四十七年六月十六日誕生、同一千七百九十八年六月八日往生而葬之。維時一千七百九十八年六月九日。
墓を管理する天然寺には、維新前まで長崎のオランダ商館から香華料として金二両が納められていた。過去にはオランダ大使が墓参されたことがあるという。
世界史の激動期にあって鎖国日本に貴重な情報を伝えたカピタン・ヘンミィ。遠い異国の地に倒れた無念はいかばかりであったか。私もせめて墓碑に合掌し、往時を偲んで冥福を祈りたい。
サッカーW杯で決勝トーナメントに進んだ日蘭両チーム。400年来の絆で互いを応援し、共に勝ち上がっていこうではないか。とりあえずは本日深夜のブラジル戦突破だ。

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