家に別府地獄めぐりの古い絵葉書があって、小さい頃よく見ていた。血に染まった血の池地獄、ぶくぶくしている坊主地獄、さわやかな海地獄、それにワニがうようよするワニ地獄もあるという。一度行ってみたいとワクワクしたものだが、いまだ行ったことがない。
手近に行ける地獄はないかと探すと「蟹地獄」が見つかった。うわー、ウヨウヨするカニがまぶれついてくるのでは…と心配したが、そうでもなかった。

岡山県加賀郡吉備中央町広面(ひろも)と岡山市北区御津虎倉(みつこぐら)の境に「蟹地獄」がある。
別府のワニ地獄は鰐の生息地かと思っていたら、温泉で飼われているのだという。餌を目がけてジャンプしてくるのだから、迫力は地獄級だろう。
いっぽうこちらの蟹地獄は蟹一匹いない普通の滝であった。蟹にとっては遡ることが不可能な地獄かもしれないが、遡らなくても十分生活できるだろう。山陽新聞サンブックス『岡山の滝』には、次のように記されている。
蟹地獄 御津郡加茂川町広面・九折(つづら)
御津町市場付近から加茂川町真瀬良に至る間が、そそり立つ絶壁の裾を宇甘川が曲流する風光明媚な宇甘渓である。蟹地獄はその中心部、両町の境界線を流れる支流の谷川に懸る小滝群を言う。県道から外れて沢登りすると、文字通り蟹さえ登れぬような小滝が相続き、一五〇メートルばかり遡った終点が、落差一〇メートルの滝となっている。
一説によれば、天正年間虎倉合戦で毛利勢に大勝を治めた宇喜多勢が、この滝で刀を洗ったという言い伝えから血洗の滝とも呼ばれている。
名前は凄いが、実際にはアクセスしやすい美しい滝である。興味深いのは虎倉合戦にまつわる伝説だ。大勝は「収める」だろう。天正八年(1580)に、備前への進入路を確保しようとする毛利勢を、宇喜多勢の伊賀氏が蹴散らすという合戦があった。毛利勢の大敗は加茂崩れと呼ばれている。その折の刀の血を洗ったのが本当なら、血の滝地獄の名がふさわしいかもしれない。


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